人生は無情でも、世界はうつくしいと

季節は巡ります。

自分がどういう状態であろうとも、冬が来たらじきに春が来る。

日本の四季は美しく、移り行く季節を五感でたっぷりと味わうことができます。

記憶というのは、さまざまな感覚と密接です。

この香り、この触感、この音、などなど、

あ。

と感じることで、よみがえる思い出は

生きていけばたくさん積み重なっていく。

春は、心がどうしても揺れやすい季節です。

終わりと始まりがこんなにも近いし、

さらには

大きな震災があった季節でもあります。

どうしようもない不安や、悲しみを抱えながらも

無情にも、どんどんと過ぎていく。

待って、待って。と言いたくなる。

変わらない現実に、焦ることだってある。

でもね。

進化や変化だけが

人を成長させるとは思えません。

たとえ、その場から心が動けなくても

あなたは充分がんばっています。

留まることもまた、勇気だし、やさしさでもある。

もしも心が揺れてしんどかったら、

そこにとどまってもいいんですよ。

人は後ろ向きだって、進んでいけるんです。

この時期になると、読み返す長田弘さんの詩集。

「世界はうつくしいと」の抜粋です。


一体、ニュースとよばれる日々の破片が、

わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。

あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。

うつくしいものをうつくしいと言おう。

幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。

シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。

何ひとつ永遠なんてなく、いつか

すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。


人生は無情かもしれない。

でも、美しいものはうつくしいと

後ろ向きに進んでも、言えるから。

世界はうつくしい。

だから、あなたは大丈夫。