教授とハカセ|言葉にならないことばがあるということ

坂本龍一さんが亡くなって、まだ幾日。

NHKの番組で観た対談が、私にはとても印象深く残っています。

生物学者の福岡伸一さんとの対談です。

それが本になっていることを知って、こちらを読みました。

音楽の起源、一回性の美しさ、生命とは、など、お二人の知識と経験、そして美学、お人柄を織り交ぜて、奥深く語り合っていますが

核になるテーマは

「ロゴスとピュシスの対立」というところです。

ロゴスとは、人間の言葉を中心にした、考え方、論理

ピュシスとは、人間の存在を含めた自然

この世界は自然です。私たちもまた、自然の存在なのですが

人間は「ことば」によって、切り取りが行われてしまう。

そして切り取れずに、そこから零れ落ちたものが、わんさかある。

そのわんさかあるものに気づかずに、生きていく方向に向かっていることは

非常に危険である。

この本はその、警鐘でもあります。

わたしがずっと、気になっているのが

形容詞なんです。

うつくしい、楽しい、悲しい、寂しい。

人が生まれ、成長する過程で言葉を獲得していくわけですが

こういう気持ちを「悲しい」と呼ぶ。ということを学ぶと

自分に発生した感情を、この言葉で切り取ります。

けれども、その気持ちが起きた背景には再現できない、一回性のことがあり

前と同じ「悲しい」ではないはず。

複雑な気持ちを、言葉によって切り取ることで

零れ落ちた気持ちがあるはずなのです。

その取り残された気持ちはなくならないので、何かで昇華していかないと

自分がその気もちたちに埋もれてしまう。

心と体の不具合が、出てきてしまう。

本の中で、日本の漢字についてのお話がありますが、

「桜」という漢字には

幹や枝、葉や花の色や匂いや音、季節の移ろい、まつわる思い出。

さまざまなことが詩となり、含まれている。

訓読みでよむと物の名称となりますが、音読みで読むと、ぐっと詩的になるように

ことばによって切り取られずに取り残されたものはいくらでも、そちらこちらにある。

これは、人間だけのことでしょう。

人工知能が人間の脳に代わってできることが増えていくのは、予想通りだし

きっとこれからも増えて、便利になっていくのだろうけれど

「ことば」によって切り取られているという、ある意味恐怖や危機感を

私たちは持っていなければならないと思う。

そして、科学者でも、哲学者でも、芸術家でもない私にできることとしたら

言葉にならない、ことばがある。

ということをまじないのように唱え

本を読み、話を聞き、書き、語ることなのかなと思っています。

あなたの、言葉にならないことばを、大切になさってください。

あなたの世界に、自由な音楽が流れますように。

フラメンコについては、メニューに曲種別にカテゴリーがありますのでそちらをご利用くださいね。